高齢社会の老人の孤独

コミュニケーションツールとしての人形

古城十忍イギリス留学直前の新作  
2005年3月より古城十忍は文化庁の助成により200日間の留学が決まってる。留学直前にお送りする今作品は、いままでの古城十忍の世界を集約した最新作となる。  
もはや「高齢化」ではない  
65歳以上の高齢者が全人口の7%を超えた社会を「高齢化社会」と呼び、14%を超えると「高齢社会」と呼ばれる。日本は1994年に14%を突破している。  
核家族の先にある家族  
2003年の出生率は「1.29」と過去最低を記録。また、子と同居している65歳以上の高齢者は5割にも満たない。核家族化・少子化に歯止めが掛からない日本では、やがて独居老人が激増するのは疑いの余地がない。  
愛用ロボットの登場  
1997年、本田技研が人間型ロボット「ASIMO」を発表。1999年、ソニーが癒し系のペットロボットとして「AIBO」を発表。2001年、NECが介護・福祉ロボットとして「PaPeRo」を発表。ロボットのイメージは今や、腕だけのマニピュレータータイプに代表される産業用ロボットから、人間とコミュニケーションする能力を持つ「愛用ロボット」へと変わりつつある。特に高齢社会の日本において、「介護・福祉ロボット」への期待は年々高まっている。
 
ロボット三原則(SF作家アイザック・アシモフによる)  
第1条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって人間に危害を及ぼしてはならない。
第2条 ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が第1条に反する場合(人間に危害を与える場合)はこの限りでない。
第3条 ロボットは前掲第1条および第2条に反するおそれのない限り、自己を守らなければならない。
 
ロボットと人間の共生  
ロボットの目覚ましい進歩は人間にとって福音となるのか。高齢者の介護問題、独居老人の孤独といった問題に光明は見えるのか。ロボットが日々の生活に、ごく普通に存在する社会を迎えた時、人間はどうなっていくのか。また、人間と人間のコミュニケーションに悪影響は及ぼさないのか。人間とロボットは将来、本当に共生できるのだろうか。




 
>>>Dの呼ぶ声  
独り暮らしを続ける初老の林繁(はやし・しげる)は最近、物忘れが激しいうえ、生きる気力をなくしたかのように元気もない。父が痴呆になることを恐れた娘の千佐子(ちさこ)は、最近売り出されて話題となっている対話ロボット「D」を購入する。父の繁は最初、孤独感を煽られたように思って憤り、「D」をまるで相手にしない。
  しかし、どんなに突き放されてもコミュニケーションを図ろうとする「D」に、父はたどたどしいながらも会話を始めるようになり、次第に「D」との生活にのめり込んでいき、やがては「D」を自分の孫であるかのように扱うようになる。そうして繁はすっかり元気を取り戻し、生き生きとした老人へと変わっていくのだが、皮肉なことに娘や友人たちといった本当の人間たちとのコミュニケーションはどんどん失われていく……。果たして「D」によって孤独な老人・繁は救われたのか、それとも「D」は繁を後戻りできない痴呆症へと駆り立てただけなのか……。

 

 
あなたはどこまで受け入れられます?

一跡二跳、久々の新作は「ヒューマノイド=人間型ロボット」の話です。  
鉄腕アトムがさらに進化して、ほとんど人間と見分けられないロボットが社会に家庭に、当たり前のように入り込んでいる。そんな時代の物語です。  
人間とほとんど見分けがつかないというと、名作映画『ブレードランナー』のレプリカントが思い浮かびますが、そんなバイオレンスな展開ではなく、ちょっと変わった家庭劇、あるいは不思議の世界を訪ね歩く旅行劇。そんな舞台になりそうです。  
ご存じでした? 日本はロボット先進国なのだそうです。  
なんでも日本人は「ロボットを受け入れやすい人種」でもあると読みあさった資料本に出てました。産業用ロボットが普及したときも、欧米では人間の仕事を奪う脅威として捉えられたのに、日本ではアイドル歌手の名前をつけて可愛がったんだとか。  
面白いと思いませんか、この違い。  
日本人がロボットを受け入れやすい理由としては、「鉄人28号」「鉄腕アトム」「ドラえもん」と、次々と登場し続けたロボットのヒーローに子どもの頃から慣れ親しんでいたという説や、キリスト教世界とは違って、特定の「神」を持たない日本人は「人間に似せたものをつくることに抵抗感が少なかった」という説まであるようですが、その真意のほどは確かではないようです。  
では想像してみてください。あなたはどこまで受け入れられます?  
時々訪ねてきて掃除や洗濯、身の回りのことをやってくれるのはOKですか? 同居も構わない? お爺ちゃん・お婆ちゃんの介護は大助かり? 子どもの世話は任せられる? ほとんど人間と変わらないように接することができるとしたら、そのロボットはあなたにとってホームヘルパー? 家族も同然? 恋人・人生の伴侶にもなり得る?  
不幸にしてそのロボットが破壊=死を迎えたら、あなたは涙を流せます?  
……今度の新作は、そんなことも考える芝居になりそうです。  
2004年11月 古城十忍
 

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劇団一跡二跳
制作:岸本 匡史