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白く、こざっぱりとした、またしても待合室。
待っている女が二人。その女たち・AとB、Aは本を読んでいて、Bは足を組んだまま一点をじっと見つめている。
女A、落ち着かない。広げた本に目を落としては、何度も不安げに立ち上がる。なんとなく威圧感のある、涼しげなBの存在……。




増岡そこが精子ドナーの待合室です。
伊達間違いなく?
増岡はい。ご足労ですが、そっち行って申し込んでもらえますか?
伊達分かりました。そこでその、精子を出すんですね?

月野藤枝さん、いらっしゃいます?
増岡藤枝?
月野こちらにお勤めだって聞いてるんですけど。
増岡……どういったお知り合いで?
月野プライベートよ。言わなくちゃいけない?

女Aあのう……。
増岡何か?
女Aさっきまで待ってたんですけど、あのちょっと落ち着かなくってトイレに、あのまだ大丈夫ですか?
増岡どうぞ、かまいませんよ。
女Aごめんなさい、なんか慣れないとすぐ舞い上がっちゃって、主人はそういうとこ人柄が出てていいって言うんですけど、あたし自分では……
増岡どうぞ。お話は中で伺いますから。

月野恋とか愛とか、そんなのヌキで子供をつくるビジネスなんでしょう?
増岡恋愛感情あるほうが普通です。
月野見ず知らずの男の精子、売ってるのに?
増岡………。
月野そういう仕事してる人たちって、もっとサバけてるかと思ってた。(増岡に手を差し出し)あたしの問診票もらえる?

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