ただならぬ緊張感
鋭利な刃物を思わせる切れ味鋭い台詞


夏の終わり。荒涼とした浜辺にたたずむ一軒の海の家が舞台。ここの主人である男は、海に流れ着いたがらくたを拾い集めては、店先に並べている。それが彼の日課らしい。この家に集う人々は、主人ともども、この世界から捨てられ、流され、そして、壊れてしまった、いわば、漂流物=がらくたである。劇の冒頭から死の臭いが漂い、ただならぬ緊張感は、容易に先を読ませない謎めいた物語の展開も手伝って、終始弛むことがない。鋭利な刃物を思わせる切れ味鋭い台詞と、登場人物たちの壊れ具合、更には車から取り外された後部座席をはじめとする漂流物、主人公の亡き妻の鎮魂のための灯籠舟、自転車で旅する少年のスポーツバッグの中に入れられていた砂等々の<小道具>が三位一体となって、わたしたちの世界の影の部分を浮き彫りにしている。劇は最後に至って、三つの死の真相を明らかにするのだが、主人公の<日常>は、にもかかわらず、打ち寄せる波のように、なにも解らない。その恐怖!
(文化庁舞台芸術創作奨励賞パンフレットより)


作/三井 快
1971年東京生まれ。桐朋学園大学短期大学部芸術科演劇専攻で学ぶ。劇団唐組を経て、創作活動に入る。99年演劇ユニット「東京ロケットカウンシル」を結成。同年、旗揚げ公演「折れた時間」の作・演出担当。
劇作家小里清が主宰する劇作ワークショップ「フラジャイルファクトリー」に参加。05年3月、戯曲「円山町幻花」で平成16年度文化庁舞台芸術創作奨励賞佳作受賞。同作品は06年6月、日本劇団協議会主催・創作奨励賞公演として劇団朋友により上演される。06年3月、戯曲「漂流物」で平成17年度文化庁舞台芸術創作奨励賞特別賞受賞。

 

時代の気分
言いしれぬリアリティ


廃れた海の家を舞台にした、この戯曲の持つ世界観は「暗い」。
底なし沼のようなどうしようもなさを色濃く全編に漂わせている。
だが同時に、「暗い」と一言で切って捨てるには忍びない不思議な魅力も合わせ持っている。皮膚感とでも言おうか、セリフの一つ一つが肌に、ぬらぬらとまとわりついてくる。
男と女。大人と少年少女。
登場人物の誰もが抱えているどうしようもない閉塞感は恐らく、そのまま現代を写し取った、言わば「時代の気分」なのであろう。
救いがたいと思いながらも、心のどこかで共鳴してしまう「時代の気分」が色濃く漂うがゆえに、この戯曲には言いしれぬリアリティがある。

上演にあたっては、この「時代の気分」を丹念に描くことに努めたい。だが丹念に描こうとすればするほど、この戯曲の持つ世界観は息苦しい。たぶん、たまらなく息苦しい。だからこそ、その息苦しさから逃げることなく、むしろ、息苦しさの中に進んで突き進んでいけば、じわじわと観る者の心に食い込む「恐怖」をも表出させることができそうだ。
(古城十忍)

 


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劇団一跡二跳
制作:岸本 匡史