第31回公演 新版・幻想作家の書き殴る夜 -宮澤賢治・太宰治・中原中也の明けない夜明け- 1996.10/26(Sat)--11/3(Sun) Theme:臨死体験 Place:シアターVアカサカ |
「新版・幻想作家の書き殴る夜」とは?
もっとユニークで、もっと自由で、もっともっと新しい演劇があっていい。
この作品は、そうした考えからスタートしました。
例えば、俳優が語るセリフを聞くだけでなく、
観客が言葉そのものを想像していく舞台は創れないものか。
この舞台は「言葉を想像させること」を、演劇的企みとして追求しています。
具体的には、物語の中に作家の執筆シーンが頻繁に登場しますが、
「文章を書く」という行為を、すべて「ピアノを弾く」という行為に置き換えた、
奇抜にして大胆な演出を、随所に盛り込もうというわけです。
つまり舞台上で、俳優がライブで、ピアノを弾きまくる。
そのメロディから、文章を想像してもらおうという趣向なのです。
そのため、いわゆるBGMや効果音はほとんどありません。
宮澤賢治の『雨ニモマケズ』や中原中也の『頑是ない歌』がピアノ曲として演奏され、
さらには、作家たちのまだ発表されていない新作までも、
ピアノ曲で表現してしまおうという企みです。
テーマは、臨死であり“心の瀕死”です。
ただ漫然と、生きているのか死んでいるのかわからないような毎日を過ごしていないか。
ややもすると死になだれ込みそうになる心をいかに克服していくか。
生きているとはどういう事か。
それぞれの角度で「死」を見つめた3人の作家たちの生き方を通して、
「生の喜び」を描いていきます。
音楽に迎えるのは、シンガー・ソング・ライターの吉岡しげ美氏。
舞台で演奏される曲はすべて、吉岡氏によるオリジナルのピアの曲です。
吉岡氏は、これまで与謝野晶子や金子みすゞなど、
女流歌人・詩人の言葉に曲をつけて自ら歌うというユニークな活動を続けています。
『ものがたり』
若き編集者・福島は運命の夜を迎えていた。
今夜中に原稿を取ってこなければ、クビになるのは間違いない。
なのに、これまで繰り返した失敗を、またしてもやってしまった。
原稿を待っている間に、思いっきり爆睡していたようなのだ。
福島が目覚めると、そこには3人の作家がいた。
その名も、宮澤賢治、太宰治、中原中也。
不審に思いながらも、福島は原稿を催促するが、この作家たち、どうにもおかしい。
以前に書いた旧作ばかり披露して、いっこうに新作を書こうとしない。
そればかりか、宮澤賢治は執拗に自分を責め続けるし、太宰治はやたら死にたがる。
中原中也は幻聴にさいなまれている様子……。
それでも福島が新作を迫っていると、今度はそれぞれの作家に女が訪れる。
宮澤賢治には、羅須地人協会の頃に噂のあった高瀬露。
太宰治には、最初に結婚して心中未遂を起こした小山初代。
中原中也には、小林秀雄と三角関係になった長谷川泰子。
女と出会ったことで作家たちは、何とか新作を書き出すものの、
おかしな様子はどんどん度を増していく。
果たして作家たちの新作は無事に書き上がるのか。
そもそも福島は、なぜすでに死んでしまっているはずの作家たちに会っているのか。
謎が謎を呼びつつ、抜きさしならない長い一夜の夜明けが近づいてくる……。
この芝居は、耳で観る。
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宮 澤 賢 治 |
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太 宰 治 |
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中 原 中 也 |
『言葉なき歌』 | |
あれはとほいい処にあるのだけれど おれは此処で待つてゐなくてはならない 此処は空気もかすかで蒼く 葱の根のやうに仄かに淡い
決して急いではならない |
それにしてもあれはとほいい彼方で夕陽にけぶつてゐた
さうすればそのうち喘ぎも平静に復し
とほくとほく いつまでも茜の空にたなびいてゐた |
『死別の翌日』 | |
生きのこるものはづうづうしく、 死にゆくものはその清純さを漂はせ 物云ひたげな瞳を床にさまよはすだけで、 親を離れ、兄弟を離れ、 最初から独りであつたもののやうに死んでゆく。
さて、今日はよいお天気です。
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その空をみながら、また街の中をみながら、 歩いてゆく私はもはや此の世のことを考へず、 さりとて死んでいつたもののことも考へてはゐないのです。 みたばかりの死に茫然として、 卑怯にも似た感情を抱いて私は歩いてゐたと告白せねばなりません。 |
制作:岸本 匡史