「声しか見えない」のチラシ 第28回公演
声しか見えない
〜あるいはK氏の右目の大叛乱

1995.11/15(Wed)--19(Sun)
Theme:老人性痴呆症 Place:東京芸術劇場小ホール1

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上演にあたって

『声しか見えない』
顔をあげた途端、信じられない光景を見た。
目の前に投げ出された、疑うばかりの光景。
とても承服しがたい。どうして受け入れられようか。まさに狂気の沙汰。
だが、待て。もしや信じられないのは目ではないのか。
目の前の光景はごく自然にあって、もしや見ているこの目が狂っているのではないのか。
疑いが頭をもたげ始めた途端、ぐるり、と世界は反転する。
いったい私は何を見ていたのか。いったい私は何を見ようとしているのか。いったい私は何を見たいのか。
疑いが疑いを呼び、信じられない自分を自分で持て余す。
真実、見えているものは何。
果たして答えは見えてくるのか、自らの手でこの目を射抜いてしまえば。
ああ今は誰かの、私を呼ぶ声しか見えない。


『K氏の右目の大叛乱』

鏡を前にするたびに、また一段と老けたような気がしてK氏はため息をつく。
首のたるみ、深く刻まれた皺、白い髪。
しょうがない。さすがに寄る年波には勝てないか。
おどけて右目をつぶりウインクしてみる。するとどうだ、鏡の自分がめっぽう若い。
驚いて今度は左の瞼を閉じてみる。何ともはや、鏡の自分は猿のような老人だ。
なんだなんだ?これはなんとしたこと。
右目の左目、つぶるたびに様子が変わる。
繰り返したあげくK氏はもう一度大きく息を吐く。
何かが自分の中で始まっている……。間違いなく何かが起こっている……。
K氏は腕組みをして鏡に向かうと、今度は両のまなこを見開いて、しっかりと自分を見返した。
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劇団一跡二跳

制作:岸本 匡史