ヤリタイ | 雪? | ||
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看護婦 | 知らなかったのぉ? | ||
ヤリタイ | (窓の外を見て)……ほんとだ……。 | ||
看護婦 | だって寒かったもの、この冬いちばんの冷え込みだって。 | ||
ヤリタイ | こういう日は年寄りがポックリ逝きやすいんだよなぁ。 | ||
看護婦 | ………。 | ||
看護婦、パソコンの画面を覗きこんで−。 | |||
看護婦 | また作ってるんですかぁ?死にそうな患者さんリスト。 | ||
ヤリタイ | 勝手にいじるなよ。 | ||
看護婦 | さぁて、次に死ぬのは誰なんでしょうねぇ? | ||
ヤリタイ | ばぁ〜か、パソ通でチャットやってたんだよ。 |
ヤリタイが看護婦の腕をねじあげて、二人の動きは止まる。 見合う男と女。 ややあって、ヤリタイが看護婦にキスしようと−。 | |||
看護婦 | (そらして)やめてよ。 | ||
ヤリタイ | どうして? | ||
看護婦 | 見当違いしないで。 | ||
ヤリタイ | (すかさず後ろから抱きしめ)ビジネスの時間はまだなんだろ? | ||
看護婦 | よくこんなことできるわね、人が死んだのよ。 | ||
ヤリタイ | けど俺たちは生きてる。 |
ヤリタイ | いえ、実は私、医者じゃないんで……。 | |
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房子 | は? | |
ヤリタイ | 実はこういう者でして……。(名刺を差し出す) | |
房子 | ……。(名刺を読み、意表をつかれた顔でヤリタイを見る) | |
ヤリタイ | 葬儀屋です。 |
房子 | 主人がいればよかったんですけど、生憎、仕事でカナダの方に行ってまして。 | |
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ヤリタイ | カナダに?それじゃ帰りたくても……。 | |
房子 | 帰れなかったんです。(再び突きあげるような嗚咽) | |
ヤリタイ | ……お察しします。 |
医者 | (ヤリタイに)こちら、遺言バンクの方で……。 | |
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背広の男 | (名刺を差し出し)山田です。山田宗一郎と申します。 | |
ヤリタイ | (受け取って)遺言バンク……? | |
山田 | お宅が葬儀屋さんとは知りませんでした。 |
山田 | ……原山さん、灰になりたいんですよ。 | |
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ヤリタイ | 灰? | |
山田 | ええ、骨じゃなくて灰です。(灰皿を示し)ま、こんなもんですか。(と灰皿をヤリタイに返す) | |
ヤリタイ | ……変わった趣味があるんだな。 | |
山田 | 散骨って言うんですがね、火葬のときふだんより強い火で焼いて、モロくなった骨を砕いて灰みたくするんですよ。で、それを海とか山に撒くんです。 |
房子、さらにヤリタイに一礼し、ヤリタイも深々とお辞儀。 山田、そのまま出ていこうとする房子に近づいて、房子が持っている遺言書に黙って手をかける。 山田と房子、遺言書を間に挟む格好で厳しい視線を交わす。 | |||
房子 | ……何ですか? | ||
山田 | お金は要りませんから。 | ||
房子 | よろしいんですか? | ||
山田 | ここに在るお父さんの遺志は、間違いなくお伝えしましたので。 | ||
房子 | ………。 |