男2 | でも俺、うるせぇって言ったんだ。 | |
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老女 | ……そう。(微笑む) | |
男2 | 初めてうるせぇって、男に怒鳴った。 | |
老女 | そしたら? | |
男2 | 気持ちよかった。 | |
老女 | ハルさん、惚れちゃう。 |
老女 | それが不思議なんだけど全然怖くないの。懐かしいの。 | |
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男1 | 懐かしい? | |
老女 | 懐かしい気分になりながら思うのよ。あ、あたし、今、自分を食べてるんだって。 | |
男1 | 自分を食べてる……んですか。 | |
老女 | これまで過ごした時間。思い。そういうの食べ直してる。牛がほら反芻するっていうじゃない。似てるかしらね。あたしの血となり肉となった、いろんな出来事を食べてる。自分をあたし食べてるのよ。 |
老女 | 手を握らせて。 | ||
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男4 | ………。 | ||
老女 | 一瞬でいいの。頼めない? | ||
黙って見ていた男4、老女に歩み寄って手を差し出す。 老女、その手を両手で握りしめる。 そのまま、一瞬といわず長い時間が流れて−。 | |||
男4 | ずっとオヤジの手を握ってればよかったんだ。 | ||
老女 | そうね。 | ||
男4 | これはオヤジの手じゃない | ||
老女 | そうね。 |
老女 | そういう食べ物じゃないけど、今までいろんな、たくさんの人からもらった栄養がね、ハルさんの体の中にはいっぱいあるの。それ、食べてるのよ。 | ||
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少女 | でもケーキもおいしいよ。 | ||
老女 | イッコちゃん……。 | ||
少女 | 一緒に食べよう。 | ||
老女 | ………。 | ||
少女 | あたしも食べるからハルさん、一緒に食べよう。 | ||
少女、ケーキを出して食べ始める。食べながら−。 | |||
少女 | おいしいよハルさん、一緒に食べて。あたし食べてるじゃない、おいしいから一緒に食べて。食べようよ。ハルさぁん。死んじゃやだぁっ。(涙が溢れてきて)死なないで。やだよ、死んじゃ。食べようよ。食べようよ。………。 |