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 本日は新進芸術家公演事業『少女と老女のポルカ』にお越しいただき、ありがとうございます。
  この舞台は1997年に初演し、今なお全国で上演を重ね続けている作品です。
  男優が女性を、しかもおばあちゃんと女の子を演じるということで、どうも奇をてらった企画モノと思われがちなのですが、作者としては、この芝居は「ハルさん」という老女の 「人物評伝」だと思っています。敢えて男優が演じる道を選んだのは、その評伝をよりリアルなものにするため、というわけです。まぁ、よりリアルに伝わっているかどうかは観て確かめていただくしかないのですが。
  不思議なもので、俳優の手に脚本が渡った瞬間から登場人物は独り歩きを始め、自分で書いておきながら「そうか、そうなんだ」と教えられることがよくあります。特にハルさんの態度には「おいおい古城、そんな毎日を送ってていいのか」と、やんわり戒められているような気になります。
  もしかしたら僕は、僕の理想をハルさんの中に見ているのかもしれません。
 
  今回、上演の機会を与えてくださった文化庁ならびに(社)日本劇団協議会に、この場を借りてお礼申し上げます。そしてもちろん、この舞台と出会っていただいたあなたにも。本当にありがとう。ハルさんの生き方に何かを感じ取っていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。

2003年2月 古城十忍




  5人の男が集っている。
年のころ20代半ばから30代とみてとれるが、実は見た目より遥かに年を重ねいるやも知れない。
4人が背広姿、残る一人がタキシードでキメている。
手には4人がグラスを、煙草を吸っている一人が灰皿を持ち、それぞれ思いを巡らせていたが、いつのまにやら整列したかと思うと、中の一人が客席に向かって──。
男3 これからお話するのは本当にあった出来事です。
男4 (煙草をくゆらせ)正確には本当にあった、と聞かされた話なんで、全部が全部事実かどうか……
男1 (男4に)事実ですよ。見てましたから。




男1 だってお、(むせる)おじさん経験ないからさ。
少女 あたしだって経験ないよ。
男1 君はだって経験するでしょう。
少女 絶対?
男1 君はだって経験するでしょう。
少女 絶対?
男1 女なんだから。



少女 鳴ったよ!
老女 鳴ってないのよ。
少女 鳴った!
男1 鳴ってないって!
少女 なんでデタラメ言うの。鳴った!
  男1、自分で食べかけていたほうの残りうどんを凄まじい勢いで一気にかきこんで空っぽにすると、上着をつかんで仁王立ち──。
男1 また来週もお願いします……!
老女 おかわり?
男1 勘弁してください。もうホント限界です。(上着を着る)


老女 見て。
少女 誰、これ。
老女 5歳の時。
少女 すっげぇプサイク。
老女 新一郎よ。
少女 ? ……どういうこと?
老女 イツコちやんの新一郎は何故生。それは、ハルさんの新一郎。



老女 きちゃったの?
男2 (大声で聞き返す)生理?
少女 !(男2の頭を殴る)
男2 あにすんだよ?
少女 そんなこと言うな。
男4 おめぇにゃ関係ないだろ。
男1 やめろよ、みんな小学生らしく……
男4 うるせぇんだよ、てめぇは。
少女 !(男2の頭を殴る)
男4 何だよてめぇ、やんのか?


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