[Return]




男2 これ。(ランドセルからハンカチで包んだものを出して手水す)
少女  (受け取って)何。
男2 今日の給食のパン。先生がもってけって。
少女 ………。(ゆっくりハンカチを広げて見る)
男2 昨日のもおとといのも俺もってんだよ。今度また持ってくる。もうパサパサになつてっけど。
少女 ………!(不意に床にたたきつける)




少女 赤ん坊。
男1 フギャフギャギャアギャア……。 
少女 誰が面倒見るんだよ。その子まで死んじゃっていいのか。
老女 この子は強いの。
少女 ずっと泣いてるじゃないか。赤ん坊。
男1 フギャフギャギャアギャア……。
老女 じっと持つのよ。
少女 何を。
老女 終わりがくるのを。



老女 やってれば来るよ、みんな。音楽が聞こえて。  
男5 人数少ないからダメだよ、手つなげない。
男4 まだ来るって。
男2 来るかな。
老女 来るわよ。音楽が鳴ってるんだもの。
  速く再び、空襲警報が聞こえてくる……。
誰もが不安を隠せないが、手をつなごうと懸命に踊り続ける。



  食卓の上に散らばったハンバーガー。先ほどのままの8畳間。
少女、ランドセルを背負って立っている。
その目はハンバーガーをとらえているが、不意に袋に戻してしまうとそのまま持って去り、再び手ぶらで戻ってくる。
チャイムが鳴る。
少女、玄関口を見るが、無視して、居間の前に置きっぱなしになってい
たお茶セットを持ってきて、自分でお茶を入れて飲む。
背広姿の男4が現れて、居間に上がったところで少女と目が合う。
少女は唖然としていて──。 
男4 開いてたからさ。
少女 泥棒だよ、開いてたからって勝手に入っちゃ。泥棒?



老女 プロポーズ?
少女 みたいなもんね。
老女 いつ? どこで? どんな状況で?
少女 そこはとてもとても大きな病院なの。
老女 病院。
少女 そこには、みんなに好かれてて、まるでそれを着るために生まれてきたような白衣のとっても似合う一人の先生がいるわけ。
老女 ああ、わかるわかる。



老女 イッコちゃんのような子は迷惑ですか。 
男5 迷惑ですね。本音で言って申し訳ないですが、途方に暮れます。教師は決して万能じゃない。私にできることなんて高が知れてますよ。
老女 先生。
男5 またひっぱたきますか。
老女 あたしの夫も教壇に立ち続けた人間でした。別れましたけど。


[Return]