増岡、藤枝のネクタイの端を掴んで、静かに引っ張りあげる。 首を軽く締めあげられた格好の藤枝、面倒くさそうに―。 | |||
藤枝 | ……何だよ? | ||
増岡 | 就職、どうだった? | ||
藤枝 | 内定、もらえたよ。 | ||
増岡 | そうか。ひと安心ってわけだ。(ネクタイを放し)海ちゃんには話したのか? |
陸雄 | もう姉に会わないでくれますか。 | |
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藤枝 | ………。(顔をあげる) | |
陸雄 | 母も今、普通じゃないんです。もし奇跡的に姉の意識が戻ったら、僕が電話しますから。 | |
藤枝 | でもそれじゃ……。 | |
陸雄 | 僕も会いたくないんです。 |
伊達 | ……なんかマズいことになりました? | |
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芳野 | (促して)何だよ、藤枝ちゃん。 | |
藤枝 | 数を減らすってことですよ。 | |
芳野 | 数を減らす……? | |
藤枝 | そういうことですよ、減数手術ってのは。 |
芳子 | ちゃんと言わなきゃって。やっぱりあなたにちゃんと話して、私、手探りでここまで来ちゃったけど、勝手にここまで来ちゃってよかったのかって……。 | ||
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芳野 | いいよ、もう。 | ||
芳子 | いいって……。 | ||
芳野 | いまさら話したってしょうがないだろ。 | ||
芳子 | でも私の病気のせいでこうなったんだから……。 | ||
いつのまにか堂元が立っていて―。 | |||
堂元 | 不妊は病気じゃないわよ。 | ||
芳子 | え……? | ||
堂元 | 妊娠しないことで健康が害されたり、体が痛んだりはしないでしょう? 不妊そのものは病気じゃないのよ。 |