世界で初めての体外受精児。ルイーズちゃんがイギリスで生まれたのが1976年。それからすでに20年。日本で初めてこの世に生を受けた体外受精児も今年、中学生になります。この舞台は2年後に設定されていますが、おそらく今現在、現実はもっと進んでいて、そこには想像を絶するドラマが日々繰り返されている気がしてなりません。
1996年3月・古城十忍
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伊達
芳野
- 藤枝
- …な、なんですか?
伊達、不意に後ろから藤枝を抱き締める。
- 藤枝
- (驚いて抵抗)何だよ?
- 伊達
- (ふと目が合って)じっとして。
- 藤枝
- 何言ってんだよ、やめろよ、ちょっ、やめろって……
- 伊達
- (再び目が合って)抱えるだけですよ。
- 藤枝
- 抱える…?
抵抗がなくなったところで伊達、藤枝の体を抱えあげ、ゆさゆさと揺すってみる。何やら感触を確かめている。
- 伊達
- 何回もやったんですがね、2を入力しても3が出てきちゃうんです。
- 藤枝
- 出てきちゃうって……。
- 伊達
- つまり、あなたの会員番号を入力するとあなた、堀之内さんになっちゃうんですよ。
- 芳野
- この人、簡単だよ。見た目さえよけれりゃオールOKだから。
- 伊達
- そうなんですか?
- 藤枝
- (記入しつつ)人間、中身も大事ですよ。
- 芳野
- あれ?そうだった?
- 藤枝
- 胃腸は大丈夫なのか。肝臓は強いのか。
- 伊達
- 中身ってそっちの中身なんですか?
- 藤枝
- じゃ、浮気ですね。
- 芳野
- ……。(射るように藤枝を睨む)
- 藤枝
- …いや、あくまでも可能性の問題ですよ。
- 芳野
- (声を震わせ)…俺の女房が浮気……?
- 藤枝
- だって、その可能性あるからリスト要求してたんでしょう?
- 芳野
- 芳子はそんな女じゃねぇんだ。
- 伊達
- 落ち着きましょう、芳野さん。
- 芳野
- (声を荒げ)芳子はなぁ……
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