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伊達
芳野
伊達が缶コーヒーを1本持ってやってきて−。
- 伊達
- なんだ芳野さん、こっち戻ってたんですか?
- 芳野
- 伊達ちゃん、まだいたの?
- 伊達
- 帰りそびれちゃったんですよ。あ、そうだ、コレ。さっきの自販機、あわよくばと思ってもういっぺんやってみたんですがね、ダメでした。1本だけ。そうそううまくいかないもんですね。
- 伊達
- 漂流したイカダ……
- 藤枝
- イカダ?
- 伊達
- 藤枝さん、言ってたじゃないですか。ふと思い出しましてね、ここがイカダでわれわれも漂流してるんじゃないかって、そんな気がしましてね。
- 藤枝
- 待ってるしかないんですからね。
- 芳野
- 俺たち、どっちなんだ?助かる方か、助からない方か?
- 伊達
- 助からない方じゃないんですか?
- 芳野
- なんで?
- 伊達
- いやなんとなく、面子を見てたらそう思いまして。
- 芳野
- 電話だ…。
- 藤枝
- 電話…?
- 芳野
- どっかで電話が鳴ってる。
- 伊達
- 鳴ってますよ。
- 藤枝
- ほんとだ。
- 芳野
- 鳴ってるだろ?
- 伊達
- いいんですかね、取らなくて。
藤枝、その音に引き寄せられるように立ち上がり、電話の鳴り響く方をじっと見る……。
音の彼方に、笑顔で赤ん坊を抱える芳子と堂元の姿が浮かぶがそれも一瞬……。
電話の鳴る待合室。
ひっそりと、愛しすぎる男たちだけが残されている。
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