男1 | ……知ってるんですね? | |
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男5 | ………。 | |
男1 | (写真を見せ)この男のこと、知ってますね? | |
男5 | ……… | |
男1 | (声が大きくなり)聞こえませんか。 | |
男5 | ………(男1を見る) | |
男1 | (写真を突きつけ)この男に戸籍、売りましたよね? | |
男5 | 知らないよ。 | |
男1 | じゃ写真見て、どうして逃げた? | |
男5 | (にやりと笑って)逃げるの得意なんだよ。 |
男2 | 空気って写真に写るんですよ。同じ場所で撮っても、空気の違いは1枚1枚はっきり出るんです。不思議ですよね。よくほら、オーラが出てるとか言うけど、人間の醸し出す空気も一瞬一瞬、違うんですよ。そういう空気の違い、くっきりフィルムに残せた時って、なんか妙に嬉しいんです。 |
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男5 | どんな人間か知ってたんだろ。戸籍ぐらいで一緒に過ごした時間がぐらつくのか? | ||
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男1 | 君は妹を捨てた男だ。 | ||
男5 | ………。 | ||
男1 | 俺と君とは違う。 | ||
男5、掴みかからんばかりの勢いで、男1の目と鼻の先にまで詰め寄る。 |
男5 | わかってたんだよ未知子さん。 | ||
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男1 | 何を。 | ||
男5 | 在日のこと知ったら、あんたは受け入れないって。 | ||
男1 | ………! | ||
突如、堰を切ったように「不可視の水」があふれ出てくる。 怒濤のように押し寄せてくる水は、透明ではなく、白く濁った水……。 そして、その「不可視の水」と同化するように、あるいは「不可視の水」をかき分けるように男2の姿……。 |