男5 | でも未知子さんの言うとおり「岬邦彦」になったら、自分から自分を見えなくしてるってことだろ? | ||
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男2 | ……矛盾してるな。 | ||
男5 | してるよ。 | ||
男2 | でもしょうがないんだ、俺は水だから。 | ||
男5 | ………。 | ||
男2、白濁の水を両の手のひらですくい取り、静に顔から被る……。 そして水面には「顔」が浮かび上がってくる……。 尋常ならざるほどにメイクが施され、あるいは文字や数字が書き連ねられ、それで大笑いしている顔・顔・顔……。 そしてそれが、ぐちゃぐちゃに塗りつぶされていく顔・顔・顔……。 男2、その「顔たち」をじっと見ていたが、やがてぷいっとドアの向こうへと去っていく……。 |
遠い時間を遡って、喪服の人々が近づいてくる。 男2、男3の姿もその中にある。 海峡を渡るがごとき歩みは、「不可視の水」に足を踏み入れた途端に足取りが鈍くなる。 まるで鉛の海を満身の力でかき分けて進むがごとき歩み……。 苦渋に満ちた顔……。 男1圧倒されながらも、両目を見開いてしっかりと見る。 すると初めて「不可視の水」の存在が男1にわかる。 水の表に、ゆらゆら揺れる大きな「日の丸」……。 やがて日の丸の向こう側から、1枚の巨大な写真のように男2の顔が浮かび上がってくる……。 男1、背広の上着を脱いで、その顔をすくい取ろうとする。 だが、その顔は何度やってもうまくすくえない。 |