１１)面会室

	男０	……サカシタ・アツシです。（一礼する）
	男１＆女１	………。（小さく礼を返す）
	女２	おまえとぜひお話したいということで、わざわざ来てくださったのよ。昨日はちょっといろいろあって面会できなくなったんだけど、母さん、今日は何も言わないから、こちらのご両親の話をよく聞いて。いいわね。（男１＆女１に）お願いします。
	男１	……ご対面だ。

	男１、ゆっくりと鬼の顔になって立ち上がる。 女０、殺意のみなぎる顔で男０に近づいていく。 あるはずの透明の分厚いアクリル板を、男１の両手は突き抜けて、男０の首をつかむ。 男１，満身の力を込めて、男０の首を絞める……。

	女２	なんですか……？
	女１	（椅子に座り男０に）娘を返してください。
	女２	───。
	女１	カオルを返してください。
	男１	サトコ……
	女１	カオルを返してください。

	旅行者たちが遠くから近づいてくる。誰もが馬に跨っている。 手綱を何度も何度も引っ張りながら、近づいてくる。
男１	私には今なお殺意があります。でも殺せません。今なお激しいほどの殺意がみなぎっています。なのに殺せません。私は父親として失格でしょうか。私は人間として何かが欠落しているのでしょうか。本当にはっきりと、自分でも驚くほどの殺意があります。なのに殺せません。どうしても殺せません。