「前田響子という女」 |
高らかに「ウエディング・マーチ」が聞こえる。 マスクをつけた3人の女が息を潜めるように肩を寄せている。 |
女A | ああ、あの音楽!あの人たちはここを発っていく。私たちだけここに残って、また私たちの生活を始めるんだわ。生きてゆかなければ、生きてゆかなければ・・・・・。 | ||
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女B | やがて時が来れば、すべてわかるわ。どうしてこんなことがあるのか、なんのためにこういった苦しみがあるのか。わからないことは何ひとつなくなるわ。でもまだ当分は生きてゆかなければ・・・・・。 | ||
女C | 音楽はあんなに楽しそうに、元気よく響き渡ってる。あれを聞いていると、生きてゆこうって気になるわ。やがて時が経つと、私たちも永久にいなくなるんだわ。 |
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女B | (女Aに)低いねぇ、あんたの鼻。見れば見るほど不格好。 | |
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女A |
うるさい。・・・・・。 | ||
女C |
知ってる?秘書課のアサダ・ユカリ。鼻にシリコン入れてたんだけどさ、マンションの階段から転んじゃって、シリコン、べろんって外に飛び出しちゃったんだって。 | ||
女A | ・・・・・。 |
女B | やっぱさ、致命的なのは目だね。 |
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女C | 目? | |
女B | (女Aを指し)この人のなんて左右のバランス最悪じゃん。なんか右と左、別々のサンダル履いてるみたいじゃない? | |
女C |
目は手術したじゃない。 | |
女A | 悪かったわね、失敗したわよ。 | |
女C | 失敗なの、それ? | |
女A | 納得なんかしてないわよ、全然。わかってるからほっといて。 |