#1整形OL「前田響子」 マスクの告白

「前田響子という女」
 傅け、跪け、無能なお前ら。「私を見て下さい」と懇願し哀願し私の足元に群れて、散れ。
  臆病者。決して私を見ようとしない、小心者。目が合うと慌てて逸らす。いいのに真っ直ぐこちらを向けば。構わないのに、軽く言葉を交わすぐらい。そんなに固くならないで。だって私はあなたを選ぶ。他の誰が勇気を出して、意を決して私に声をかけてきても、私はとっくにあなたを選んでいる。あなたは私に、出会った時から選択されているのだから。私には気づかれていないだろうと可愛らしい思い違いをしている連中の、隠れた幾多の視線の真ん中をあなたは通ってくればいい。私はあなたを決して拒んだりはしないから。私はあなたが欲しかった。あなたのその目が、体温が、ねぇ私は強烈に欲しかった。手を伸ばせ。私の権利を掴み取れ。嫉妬と羨望を全身に受け、じっと見つめ合い恥ずかしさは他へ逃がさず恐る恐る繋いだその手は、二つともきっと少し濡れている。
山下夕佳



 

高らかに「ウエディング・マーチ」が聞こえる。

マスクをつけた3人の女が息を潜めるように肩を寄せている。





女A ああ、あの音楽!あの人たちはここを発っていく。私たちだけここに残って、また私たちの生活を始めるんだわ。生きてゆかなければ、生きてゆかなければ・・・・・。
女B やがて時が来れば、すべてわかるわ。どうしてこんなことがあるのか、なんのためにこういった苦しみがあるのか。わからないことは何ひとつなくなるわ。でもまだ当分は生きてゆかなければ・・・・・。
女C 音楽はあんなに楽しそうに、元気よく響き渡ってる。あれを聞いていると、生きてゆこうって気になるわ。やがて時が経つと、私たちも永久にいなくなるんだわ。



 

女B (女Aに)低いねぇ、あんたの鼻。見れば見るほど不格好。

女A

うるさい。・・・・・。

女C

知ってる?秘書課のアサダ・ユカリ。鼻にシリコン入れてたんだけどさ、マンションの階段から転んじゃって、シリコン、べろんって外に飛び出しちゃったんだって。
女A ・・・・・。




女B やっぱさ、致命的なのは目だね。

 

女C 目?
女B (女Aを指し)この人のなんて左右のバランス最悪じゃん。なんか右と左、別々のサンダル履いてるみたいじゃない?

女C

目は手術したじゃない。
女A 悪かったわね、失敗したわよ。
女C 失敗なの、それ?
女A 納得なんかしてないわよ、全然。わかってるからほっといて。


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