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男4 で、お前にも気付かないわけ?
男1 全然。(吊革を持つ手をして)俺が立ってる(自分の斜め下を指し)ほんのここに前田さん座ってたんスよ。でも全然。
男5 ああいう女って、周りの人間なんてオブジェにしか見えてないんじゃないの?
男4 オブジェだったらまだいいよ。なぁんにも見えてないんだよ。



 

男たち、足早に去っていくと同時に笑い声・・・・・。
立ちつくしていた女A、不意に太極拳を再開。
酸欠気味の呼吸を整えるかのように、女B・Cも太極拳を開始する。
と、どこからかともなく 背広姿の男たちが現れてニヤニヤ・・・・・。
そして太極拳に専心する女たちをいとも軽々と、まるでマネキンを運ぶがごとく持ち上げ、女たちの立ち位置を変える。





男5 前田さん、3時からの会議の資料、揃えてくれたの前田さん?あ、やっぱりそうか、気が利くなぁ、前田さん。あ、口紅、変えたんだ。いいじゃない、似合ってるじゃない、その色。・・・・・・。
  会話を続ける男5と女Aを見守りつつ─。
女B ねぇ、感想は?
女C 悪くない。悪くないでしょう?
女B そうね、幸せね。



女C 音楽はあんなに楽しそうに、元気よく響き渡っている。あれを聞いてると、生きてゆこうって気になるわ。やがて時が経つと、私たちも永久にいなくなるんだわ。

女A 私たちは忘れられてしまう。
女B 私たちの顔も。
女A 声も。
女C 音楽はあんなに楽しそうに、あんなに嬉しそうに音を奏でている。



女A ここはどこ?
女B ここは、病院。
女C 病院のどこ?
女A 手術台の上。



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