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#3 ピアッシングOL「守田美咲」 カブトムシと恐竜

「思い出したこと」
 幼い頃、森には妖精が住んでいると思っていた。いや実際見たような気がする。
 そんな話をしたら笑われた。そんな感覚をいつの間にか忘れていた。
 子供の美咲。大人の私。
 あの頃私は、今の私を想像していたか。まさか。
 高校の卒業文集に将来の夢「かわいいお嫁さん」と書いてある。本当は「○○」と書きたかったのに、恥ずかしかった。ただただ恥ずかしかった。
 やっぱりこうなることは分かっていたのかもしれない。
 恥をかかないように恥をかかなきゃ。
 正直でいるために嘘をつかなきゃ。
 開き直りを自然体だと履き違えた三十代の夏
 福留律子

 



美咲 ………。

内海 たいしたことなくてよかったよ。
美咲

ここんとこ、なんか疲れ気味なの。

内海 仕事?
美咲 まぁね。



  内海、立ち上がってベルトを緩め、ズボンとパンツを少し下げてみせる。
美咲、食い入るようにじっと見る………。
美咲 ………。
内海 びっくり?
美咲 恐竜なんだ、骨だけの恐竜………。
内海 これ以上の裸はないってことで。



  美咲、コートハンガーの反対の端を持つ。
内海の視線、美咲に釘付け。美咲の視線は、中空の一点にある。
真空の中にいるような静かな時間………。
やがて美咲、ふふふ………と笑う。

内海 ………何?
美咲 マリナーズのイチロー。
内海 ………!(驚愕)



美咲 煙草、消しなさいよ。
内海 消すよ。(煙草を消す)
美咲・潤子・沙織 ………。
内海 消したところでお聞きしますけど、「こっくりさん」じゃないんなら、何しに来たんですか、3人そろって。
沙織 なんで内海君に言わなきゃなんないのよ。
潤子 関係ないでしょ。
内海 言えないことだ。



内海 生きたまま標本にされたカブトムシは、実は世界中あちこちにいっぱいいて、それが夜中になると一斉に、ガサガサと動き出して集まってくるんだ。

沙織 やめてよ、気持ち悪い。
内海 集まってくるんだよ、学校に。
潤子 学校に………?
内海 何すんのかなぁ、カブトムシは集まって。
美咲 ………。



美咲 離して。
沙織 何すんの。
潤子 離しなさいよっ。
内海 (厳しい声で)当ててやろうかっ?
潤子 えっ………。
内海 中身、当ててやろうか?
沙織 ………知ってるの?


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