山田 | ですから遺骨、全部粉にして撒いてほしいって遺言なさってるんですよ。 | ||
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桂子 | 遺言? | ||
山田 | (差し出し)コレです。ご覧になってください。 | ||
橋本夫妻、遺言を受け取って、焦って目を通す。 ヤリタイ、たばこを灰皿にもみ消しながら山田に近づいて、低い声で−。 | |||
ヤリタイ | 悪いけどさっさと終わらせたいんだ、今日は約束があるんでね。 | ||
山田 | あなたの理解があれば、それだけ早く終われるんですけどねぇ。 |
病室のようだ。ベッドの脇にはパソコンが置いてある。 悟、映すなよ、といったふうに手でレンズを覆ったりする。 カメラ悟のアップから引いていくと、悟は小瓶に粉のようなものを入れている。 瓶に書かれたONO……。 黒いセカンドバック……。 ヤリタイ、食い入るようにスクリーンを見つめたまま、呆然と立ち上がる……。 | |||
ヤリタイ | ……そんな……。 |
病院の詰め所。 ヤリタイがぼんやりと入ってきて、パソコンに近づく。バッグから小さな壺を取り出すと、その中には骨灰……。 ヤリタイ、本の少し指でつまんで二〜三度、自分の掌にこぼしてみて、やがてそれを静かにサラサラとパソコンの上にバラ撒く……。 |
シタイ | いるよ。 | |
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ヤリタイ | なんだ、いたのか。 | |
シタイ | なんだはないだろ、なんだは。 | |
小夜子 | ねね、ヤリタイ。今日は大提案があったのよ。 | |
ヤリタイ | 大提案? | |
シタイ | 4人でオフ会をやろうって。 | |
天涯孤独 | 私、来月の最初の日曜日、出張で上京するんですよ。 | |
小夜子 | その日なら私も休みとれるから。どう? |
シタイ | またくるよ。 | |
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ヤリタイ | え? | |
シタイ | いつでもアクセスできるだろ、俺たち。 | |
ヤリタイ | そうだな。 | |
シタイ | またくる。 | |
ヤリタイ | ああ。 | |
シタイ | きっとくる。 | |
ヤリタイ | しつこいぞ。 | |
シタイ | じゃあな。 | |
ヤリタイ | おやすみ。 |
女 | 藤木美香です | |
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男 | 高平浩平です。 | |
ヤリタイ | ……? | |
藤木 | 分かれへんのん? | |
ヤリタイ | ……どこかで会いました。 | |
高平 | (藤木と顔を見合わせてから)私、天涯孤独 | |
藤木 | 小夜子やん。 | |
ヤリタイ | ……あ。 |
と、天から骨の粉が静に降り注ぐ……。 粉雪のように、ゆるやかに骨灰が舞う……。 |