この『リセット』には、過去に上演した『ONとOFFのセレナーデ』『眠れる森の死体』 『イエスマンの最後のイエス』に登場した人物が再登場します。過去、それぞれの物語を紡いだ人物たちが新作で出会って、新しい物語を生み出すとしたら、そこにはどんな思いや悩みがこぼれ出てくるのだろう。そこがスタートでした。過去の体験はそれぞれ違うとはいえ、死にまつわる経験をした彼らが新たに紡いだ『リセット』という物語は、やはり死とは無縁ではいられなかったようです。
不思議なことに、昔懐かしい友達と再開するような思いで彼らとともに「死」を考えることは、実に楽しいことでもありました。だぶん死について考えることは、生きることを考えることと同じように、楽しくて、愉快なことなのかもしれません。
1996年7月・古城十忍
白衣の男 | しょうがねぇんだけどなぁ |
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市川 | は? |
白衣の男 | (名詞をかざし)もらっても。 |
市川 | 仲良くしてやってくださいよ。もう先生の手となり足となり、ご期待に添えるよう何でもやらせていただきますから。 |
白衣の男 | ……(自分の名刺を差し出す) |
市川 | あ、恐れ入ります。(受け取って見る) |
白衣の男 | 気持ちは嬉しいけど。 |
市川 | 景浦守……ニホン葬儀……。 |
景浦独りになると、ソファに開かれたままの分厚い本が目にとまり、ページをめくって見て、表紙をのぞく いつのまにか、パジャマの男がソファの上に座っている……。 景浦本を置くと、それからまたデジタル時計を見やり、やがて目をそらして行こうとすると−。 | ||
パジャマ男 | 先生。 | |
景浦 | ………。(足が止まり、怪訝に振り替える) | |
景浦が携帯電話を耳に押し当てたまま、何かに目を奪われて立ちつくしている。奪われているのは目ではなく耳、あるいはその両方であるのかもしれない。 立ち尽くす景浦とは対照的にデジタル時計は動き続ける。しかもその動きが異様に速い。 点滅しはじめる緑色の、これは何かのランプであろうか。不意に大写しになる数字。 音楽は流れ続ける。 何かに向かっていくように。何かを駆り立てるように。何かを訴えるように。強く。激しく。やがて、優しく柔らかく穏やかに、すべてを、一切を、包み込むように。 |
市川 | ……景浦さん!EメールのID……. |
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後を追おうと市川、磯井で鞄や分厚い本など自分の荷物を抱え持つが、ふと足が止まってしまう。 それから戻って荷物を抱えたままソファに座り、ヘッドホンを耳に音楽を再生する。 そして残りのジュースを飲みほすと、いきなり空缶を握り潰す。 市川、ゆっくりと頭を抱える……。 | |