老女 | じっと待つのよ。 | |
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少女 | 何を。 | |
老女 | 終わりがくるのを。 | |
少女 | 終わり? | |
老女 | たとえそれが焼夷弾でも、降る雨はじきに止むわ。 | |
少女 | 止むもんか。ハルちゃんは知らないんだ。あいつらのしつこさ、ねちっこさ。タチの悪さ。人の事汚いゴミだと思ってんだよ。悲しいとか、苦しいとか、そういうのこっちには全然ないと思ってンだ。絶対、止めやしない。終わりなんかない。(男1に)爆弾。 | |
男1 | ヒュ〜ゥ〜ゥ〜ン、バカバカドンドン! |
男1 | あの子は知ってるんですか? | |
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老女 | まさか。全然。 | |
男1 | 気持ち、変わらないですか。 | |
老女 | 全然。困る? | |
男1 | ちょっと複雑かな。 | |
老女 | これはあたしが決めたことだから。 |
遠くから空襲警報の音が聞こえてくる……。やがて警報は怒涛のように、老女の全身を裂くほどに聞こえ始め、Yシャツ姿の学生たち(男2・3・4・5)が現れてくる。 空襲警報が不意に途切れて−。 |
老女 | (はっと呼び止めて)新ちゃん、どこ行く気? | |
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男4 | 校庭だよ。お前、行かないのか? | |
老女 | 空襲警報鳴ったの、聞こえなかった? | |
男3 | 約束してたろ、今日はみんなでフォークダンスやるって。 | |
老女 | そんなの分かってる。でも空襲警報…… | |
男4 | なんであいつらに邪魔されなきゃいけないんだ?明日になれば離れ離れになる奴が何人もいるんだぞ。 |
「マイムマイム」の音楽、ひときわ大きくなる。 するとなぜか、背広姿の男1、そして少女までもが現れて、ひとつになろうと踊りに加わっていく。 人数が増えて、まともな一つのサークルとして手が届きそうに思えた直後、警報が急激に大きくなって辺りを圧倒し、爆撃音が轟く。 踊っていた面々は散り散りに逃げ去って−。 一瞬の静寂。 |
男3 | すみません、厚かましく上がらせていただきました。。 | |
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老女 | (戸惑いつつ)……いえ。あの……(息が荒い) | |
男3 | 怪しい者じゃないです。 | |
老女 | ………。(へなへなと座り込んでしまう) | |
男3 | (思わず寄って)大丈夫ですか? | |
老女 | やっぱり、力入らなくなるのねぇ、食べないと。 |
老女 | おいしいわよ、これ。 | ||
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少女 | ハルさん、やめてよ……。 | ||
少女、泣きそうになっている。 老女、少しずつ食べている。 男5、突然、別のハンバーガーの包みを開け、乱暴に口の中に押し込むように食べ始める。 ガツガツとあっという間、腹立たしげに食べ終わると少女に−。 | |||
男5 | これで学校、来るんだな?先生の言うこと何でも聞くんだな?気がすんだんだろ……! | ||
老女、平手で厳しく男5の頬を打つ。 と、打ったほうの老女、途端に腕を押さえて屈み込む……。 |