声なき悲鳴とともに男Y、男Xに体当たりしていく。 すぐに形勢逆転。男Xは力の限り男Yの首を締めあげつつ―。 | |||
男X | この顔を誰が許す、え? こんなヤツ誰が相手にする、言ってみろ、答えてみろさぁ、誰が許す……! |
映子 | あぁ……。あたしね、いいこと思いついたの。(バッグの中を漁りつつ)思いついたらなんだか居ても立ってもいられなくなっちゃって。(バッグから手鏡を二つ出して男Yに見せ)これ。 | |
---|---|---|
男Y | (どきり、と)……鏡? | |
映子 | 恭造君シャイだから。(男Yに手鏡を一つ握らせ)間接的にだけど、これなら顔を見て話せるでしょ? (自分でも一つ持ち鏡越しに)こうやってホラ、あたしは恭造君の、恭造君はあたしの顔を映して鏡に話すの。恥ずかしくないでしょ? | |
男Y | ………。 | |
映子 | (鏡越しに)ちょっと、変? | |
男X | 変だよ。 |
映子 | (目を合わせず)後悔したわ。ううん、後悔してるの。前はねどうしたって応えるわけにはいかないって、そう自分に言い聞かせて自分を縛ってた。そういうところあった気がするのよ。でも今なら新しい世界に行ける、踏み出せる。傷口をまた引き裂くことになったとしても、今からでも遅くないんじゃないかって、そう思えるようになったの……。 | ||
---|---|---|---|
いつのまにか男Yだけでなく、男Xの手にも手鏡……。 手鏡をゆっくり動かして男Xと男Y、それぞれの鏡面で映子を捕らえ―。 |
蓮見 | だから鏡を見るのか? | ||
---|---|---|---|
男X・Y | そうだよ。 | ||
蓮見 | 俺が知らないとでも思ってるのか? | ||
嵐のように蓮見、カーテンを引きちぎって剥がす。 男X・Y、戦慄が走る。 果たしてカーテンの奥にあるのは窓ではなく壁。 それもびっしりと鏡に覆い尽くされている……。 壁一面に大小さまざまの姿見、手鏡、欠けた鏡、ひび割れた鏡、夥しい数の鏡が所狭しと張りつけてある……。 乱れる呼吸を男X・Y、それぞれ必死に抑えている……。 | |||
蓮見 | ……お前は病気だ。 |
互いにうなづいて男X・Y、改めて鏡に視線をあげたその時―。 鏡だらけの壁がぱっくり割れる……。 その裂け目から、顔に鉛のような銀一色のマスクの張り付いた人々、口々に「ひそひそ」しながら後から後から現れてくる……。 戦慄が走る男X・Y、身がすくみ、やがて体が震え、震えは止まらず……。 「ひそひそ」とマスクの人々、男Xを見ては嘲笑い、男Yを見ては薄ら笑い、笑い声はやがて瀑布のように天から轟き渡り―。 ついには男X・Y、自らの体を支えられず倒れてしまう……。 |