走次 | お前に言われる筋合いはない。 | |
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のりこ | やめて羽山君! いい年した大人のすることじゃないわ。 | |
走次 | (のりこに)うるせぇよ! | |
のりこ | 羽山君…。 | |
走次 | 大人でも、大人でも、僕たちは何にもできないじゃないか。どうすることもできないじゃないか! | |
ツメタ郎 | ガキのくせにいきがるんじゃねぇよ!(とまたつかみかかる) |
走次 | まだだよ、行かないで。まだもっと鮮やかに、ここにいて。記憶するから。鮮やかに記憶するから、もっとここにいて。 |
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走次、急いでランドセルからアンパンを取り出し、焦って食べようとする。 と、走太郎と祖父が「現在の走次」のもとへそっとやってくる。 そして3人は同時に1個のアンパンをおいしそうにかじる。 続いて父と母がそっとやってきて、再び3人は同時に1個のアンパンをおいしそうにかじる。 満面の笑顔にあふれた、アンパン1個だけの家族の食卓。 顔をくしゃくしゃにして笑い転げる走次。 やがて家族たちは、やさしい笑顔を残しつつ走次から離れていく。 そして、静かにいなくなる家族たち。 誰もいないリビング。 |
のりこ | 大人なんだから、泣いちゃったらいけないよ、ずるいよ。 | |
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走次 | (パンを受け取って)でも僕、本当は8歳なんだよ。 | |
のりこ | あたしだって9歳よ。 | |
走次 | だから泣いていいんだよ。 | |
のりこ | いけないよ。 | |
走次 | いいんだよ。 | |
のりこ | いいの? | |
走次 | いいんだよ。 |