ワンツーワークス #41
シリーズ[家族を見つめる]③
『 線引き~死者に囲まれる夜~』

[作・演出] 古城十忍

2024年11月14日(木)~ 21日(木)

赤坂RED/THEATER

[予定上演時間]約 1時間35分

[助成]

文化庁
文化庁文化芸術振興費補助金
(舞台芸術等総合支援事業(公演創造活動))
|独立行政法人日本芸術文化振興会
ARTS COUNCIL TOKYO
公益財団法人東京都歴史文化財団
アーツカウンシル東京
【東京ライブ・ステージ応援助成】

いったい家族とは何なのか? いつが家族の始まりで、終わりはいつなのか……? ―――それは、父の通夜の席でのこと。 集まった家族・親族の面々は、
誰もが気丈に明るく振る舞っていたが、
伯母が何気なく発したひと言で、
途端にその場が凍りつく……。
寒々しく、不穏な空気が漂う中、 やがて一人、また一人と
堰を切ったように口を開き始めると、
あろうことか、あっという間に罵詈雑言の雨嵐。 悪意が悪意を呼び、憎悪が憎悪をかき立て、 通夜の場は凄まじい修羅場へと化していく。 そして、通夜の場そのものにも
驚くような異変が起こり始める……。

「虫の知らせ」は、本当は何の知らせなのか?
死んでしまった人までが「激論」を闘わせる、
奇妙な家族の物語。

私は信仰している宗教もなく、超常現象だとか、霊感的なこともまったく信じない人間ですが、ただひとつだけ、「虫の知らせ」というものはあるかもしれないな、と思っています。いえ、私自身はそんな経験もまったくありません。母が経験したんです。

私がまだ小学生だった遠い昔、いつものように朝起きて厨房に行くと(その昔、私の実家は旅館を営んでました)、母が仲居さんたちと宿泊客のための朝食の準備をしながら泣いていたのです。おいおい声を上げていたわけではなく、いつものように朝の仕事をこなしながら、ただこぼれ落ちてくる涙を拭う……そんな様子だったので、「なんで泣いてるの?」と尋ねると、「おばあちゃん、死ぬかもしれん」と言うのです。なんでも朝早く、胸の辺りが苦しくて目を覚ますと、おばあちゃんが母の枕元に正座していた、と。

私は思い詰めたような母の顔が怖くて、でも「絶対に嘘や冗談を言ってるんじゃない」という確信だけはあって、それで「おばあちゃん、なんか言った?」と聞くと、母は黙って首を横に振り、それから独り言のように「目が合ったらおばあちゃん、そのまま立ち上がって、なおも上から覗き込むように顔をじっと見て、何にも言わず背を向けていなくなった……」。何か言わなきゃと思いながら私が何も言えずにいると、母は付け加えるように、ぽつりと「虫の知らせ」と言いました。

「そんなわけないよ、気のせい……」と私が何の助けにもならないことを口にし始めたら、突然、父が足早に現れて、母に「今、電話あっておばあちゃん、危篤だそうだ」、そう言ったのです。

それを聞いた母は声を上げて泣き始め、父は「行こう、行くよな?」と言うと、すぐに戻っていき、母はなぜか私に「行ったほうがいいかな?」と聞くのです。

「そりゃそうだよ、行って」と、私は事の展開が信じられないまま答えると、母はおもむろに手を洗い、涙を拭い、ゆっくりと厨房を出て行きました。

……母は死に目には会えませんでした。病院に着いたら母方の親戚の人から「まだ1時間も経っとらんよ」と言われたそうです。1時間前といったら、ちょうど母と父が車で家を出て向かい始めた頃でした。

母は自分の母を早くに亡くし、おばあちゃんに育てられたと、なんとなく聞いたことはありましたが、詳しく聞いたこともなくて、そのおばあちゃんに私が会ったのも小学校に上がる前に一度きり、それだけだったと私は記憶しています。なので私は、顔もはっきりと覚えていません。そう言えば、母は里帰りすらほとんどしたことがなかったような気がします。

母のおばあちゃんは、母に何か言いたかったんじゃないだろうか。母は母でおばあちゃんに話したいことが山ほどあり、それでおばあちゃんが枕元に正座しているのを見たとき、「ああ、もう話はできないんだ」と直感的に悟ったんじゃないだろうか。こぼれ落ちた涙はそういうことだったんじゃないだろうか。

私は、あの「虫の知らせ」を今ではそういうふうに勝手に解釈して納得しています。

演劇にはよく、死んでしまった人間が登場人物として出てきます。そんな戯曲はさほど珍しくありません。私も『奇妙旅行』『アジアン・エイリアン』など何作か書いています。それだけドラマや映画といった映像より演劇のほうが相性がいいんです。

というのも、その理由は当たり前のことですが、「演劇は観客の想像力によって成り立つものだから」です。なので、死んでしまった人は「演劇ならではの登場人物の代表格」と言ってもいいかもしれません。

さてワンツーワークス、このところ翻訳劇にばかりに明け暮れていましたが久々の新作です。古城十忍、約2年半ぶりの劇作家です。どうしましょう。戯曲ってどうやって書くんでしたっけ? (おいおい)

でも本当に久々なので、ならば「演劇ならではの趣向を存分に凝らした芝居」に立ち帰り、そのためには「演劇ならではの代表格の登場人物にも大いに出てもらおうじゃないの」と思い至りました。

翻訳物でアメリカ、ドイツと外国の家族の話に取り組んできましたが、今回はもちろん、日本の家族を描きます。しかも、私の自伝的要素がふんだんに詰め込まれています。いえ、だからといってそれが面白いかどうかはわかりませんが。(え、そうなの? 古城十忍の自伝なの? と小躍りする人は一人もいない)

それにしても、外国にしろ日本にしろ、家族って本当に面倒臭いですねえ。「いやいや、そんなことないよ」と思われる方のほうが圧倒的多数なのかもしれませんが、私はひたすら面倒臭いです。よく、「普通の家族なんてない」と言いますが、それはまったくその通り。波風立たない家族なんてない、立ってしまった波風にどう立ち向かうのか、その向かい方次第で「どんな家族」なのかが見えてくるんでしょうね、きっと。

久々の新作は今回も出演者にニューフェイスはいません。みんな一度はワンツーワークスに出演したことがある人ばかりに集まってもらいました。きっと仲良くやっていけるに違いありません、家族のように。

2024年9月7日古城十忍

家族とは何のためにあるのか、
死者は教えてくれるのか?
[作・演出]古城十忍

私は家族というものがよくわかっていない、と自分では思っています。両親はともに私が20代の頃に亡くなってしまい、私は今なお独身で私が新たに築いた家族はありません。兄弟はいますが、10年に一度会うか会わないかという付き合いなので、「両親の死が私の家族の終わりだったのだろうなあ」と、今ではなんとなく、そう自認しています。

いえ別にそのことに何の不満もないのですが(孤独死という不安は残るけど)、両親または父母のどちらかが今なお健在だったら、私の人生はもっと違うものになっていたかなあ、と思ったりはします。

とはいえ、自分中心に生きてきた私の性格から考えると、さほど大きく異なりはしなかっただろうなあと思えるし、むしろ早くに逝ってくれて私が親の介護に手を焼いたり生き方を曲げたりしなくてすんだ両親にはもっと感謝すべきなのかもしれません。

そもそも私の生まれ育った家は旅館だったので、常に一つ屋根の下に赤の他人がいましたし、生まれたときから家族というものを求められる環境に私はいなかったのかもしれません。

そう考えると、私にはますます謎です。「家族っていったい何のためにあるのでしょう?」

ワンツーワークスでは昨年から、『シリーズ[家族を見つめる]』という企画をスタートさせ、これまでに『R.P.G. ロール・プレーイング・ゲーム』(作:宮部みゆき)、『アメリカの怒れる父』(作:チャン・ウジェ)の2作を上演しました。この2作品から共通して教えられるのは、「家族であっても信頼関係を築くのは難しい」ということだと私は捉えています。

そして本作がシリーズ3作目。本作でも「信頼関係を築くことの難しさ」は、ちらほらと描かれているとは思うのですが、最も特徴的なのは「死者をも交えた家族」という枠組みで家族を捉え直してみようと考えて作品づくりを進めたことにあります。

どうしてこんな現実離れした馬鹿馬鹿しい設定で家族を見つめてみようと思ったのか、今となっては謎です。しかも「死者も交える」ことにしたおかげで、霊的なこと、スピリチュアルなことを避けて通れない事態となってしまったのです。

さらに困ったことに、私は霊感もないし、霊的なこともまったく信じていません。幽霊も人魂(夜間に空中を浮遊する火の玉)も見たことないですし、虫の知らせも経験ありませんし、ホテルの一室に入って、「この部屋は悪い気に満ち満ちている」などと思ったことも一度だってありません。(あの劇場には幽霊が出る、といった話も苦手です)

こうなったらもう未知の世界のことに想像の翼を広げまくって、「もし私が今、母と会ったらどうするのか?」「父と会ったら何を言うのか?」、そんなことまで考えてみるしかありません。

「家族はいったい何のためにあるのか?」

その答えは「人それぞれ、十人十色」。これは紛れもなく正解だと思うのですが、もっと深いところまで家族について考えると、それは誰も知らない死後の世界のように掴みどころがない。つまり、「よくわからない」。本編上演がまだ始まってもいないのに、今公演に限っては「それが正解です」ということでいいでしょうか?

★:アフターイベント

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19:00 1 2 4   6 8 9  

アフターイベントのご案内

創作のヒント、裏話、内緒話、
たっぷりとお届けします。

15日(金) スペシャル対談「家族という謎」
[出演]片山夏子(東京新聞記者)× 古城十忍

ゲストの片山夏子さんは2011年3月11日以降、一貫して「福島第一原発事故後の福島の現状」を追い続けている「東京新聞」の記者です。中でも廃炉に向けて過酷な仕事に従事する作業員たちの日常を丹念に綴った記事は信頼関係あればこその取材が窺われ、そこには「変わらざるを得なかった家族の形」も詳しく描かれています。

もちろん、福島以外の取材の経験も豊富で、そこでもさまざまな家族の在り方を見つめてきた片山さんに、「変わりゆくもの、変わらないもの」を手がかりに、「いったい家族とは何なのか」について、たっぷりと語ってもらいます。そこには伝えるためにモノを書く、つまりは創作のヒントもきっと潜んでいるはずです。

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18日(月) 出演者トーク①「家族、要る?」
[出演]長田典之 × 金原直史
× 綾城愛里奈 × 奥村洋治

法律的には「親族」の定義はあっても「家族」の定義はない、とか。一般的に家族とは「同居」の「婚姻相手か血縁者」らしい。

数十年前、「平均的な日本の家族構成」は「両親と子ども二人」の4人家族と言われてた。そこから「両親と子ども一人」の3人家族に変わった気もするが、今、私(奥村)の周囲は独り暮らし多数。東京だからなのか? 独り暮らしの気楽さを捨てて、わざわざややこしい複数の人間関係を取らなくても何不自由ないということなのか。そもそも、日本の結婚制度って女性に不利なんじゃないか? 子ども? 欲しくても、欲しくなくても生まれるかどうかは、まだまだ神頼み……。

家族持ち、独り暮らし。令和の今の「家族観」を探ります。

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20日(水) 出演者トーク②「俳優四方山話」
[出演]山下夕佳 × コバヤシ桃子
× 藤村忠生 × 関谷美香子

久々の新作公演、出演する面々は早くも気合が入っていることでしょう(笑)。俳優の仕事はもちろん役を演じることですが、新作の場合はもっと根本的なところから全員で作品を生み出していく作業になります。

稽古初日から幕が開くまでの諸々、幕が開いたからこそ言える諸々、ワンツーワークス常連の皆さんですから、遠慮なく本音を心ゆくまでぶっちゃけてくださるでしょう!

時間の許す限り、プライベートな話も交えて、家族や死生観の諸々、俳優という仕事についての諸々、とにかく四方八方なんでもありの、個性的で気心知れた俳優陣によるトーク企画。収拾がつかなくなる危険も孕んだ四方山話。さあて、どうなることやら。それは当日のお楽しみ!

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チケット販売

一般前売り開始
2024年9月29日(日)11:00

料金(全席指定/税込)

前売
4,900円
U30
3,000円(前売・当日とも)
U18
2,500円(前売・当日とも)
当日
5,200円
初日割
4,000円(前売のみ)
ペア割
1枚 4,600円 × 2(前売のみ)
リピーターチケット
3,900円
(公演終了後のロビーで販売)
  • *受付開始および当日券販売開始は開演の1時間前、開場は30分前です。
  • *開演時間を過ぎてからのご来場は、指定のお席にご案内できない場合があります。
  • *「U30][U18]チケットは劇団のみの取り扱いです。当日受付にて証明証をご提示ください。
  • *「初日割」は11月14日(木)19:00の回のみ、前売りのみの料金です。
  • *「ペア割」は前売りのみの料金です。
  • *「リピーターチケット」は公演期間中の各回、終演後に劇場ロビーにて販売します。
  • *10歳未満の児童はご入場いただけません。

取り扱い

チケットぴあ(※WEBのみ)
https://w.pia.jp/t/onetwo-works/
Confetti(カンフェティ)

WEB予約:
https://confetti-web.com/@/onetwo-w41

電話予約:0120-240-540(平日10:00 ~ 18:00)

ワンツーワークス

TEL:03-5929-9130(平日11:00 ~ 18:00)

ご予約はこちら

ご予約受付は終了しました。

U30チケット、U18チケットを
お求めの皆さまへ

ワンツーワークスではこれまでの「学生チケット」3,000円を「U30チケット(30歳以下)」3,000円と「U18チケット(18歳以下)」2,500円の2種類のチケットとし、高校生以下の皆さまのチケットをさらにお求めやすくしました。また、どちらも当日・前売り料金ともに同じ金額です。チケット購入のための証明証の確認が必要となりますので、事前決済ではなく、基本的に当日受付での精算とさせていただきます。

お席は予約順に前方のお席からお取りします。ご希望があればお申し込みの際に備考欄にお書きください。

ただし、一般料金でご入場の方とご一緒に事前決済をしてチケットを郵送ご希望の場合はその旨承ります。その場合は当日受付で証明証をご提示ください。

キャンセレイション・ポリシー
受付精算のご予約でご来場できなくなった場合はメールまたは電話でご連絡ください。公演当日の開演2時間前まではキャンセル料金はかかりません(14時開演は12時、19時開演は17時)。それを過ぎるとキャンセル料金が発生します。キャンセル料金はチケット料金の全額となります。劇団から請求書をお送りしますので1週間以内にお振り込みください。

チケットに関するお問い合わせ

ワンツーワークス
〒166-0004 東京都杉並区阿佐谷南1-8-3
佐保会東京会館101
TEL:03-5929-9130
FAX:03-5929-9131
mail:onetwoworksinfotemp@yahoo.co.jp

アクセシビリティ

  • *車椅子でご来場を予定の方は事前にワンツーワークスまでご連絡ください。専用スペースを確保します。また、劇場には専用駐車場が1台ありますが予約制です。ご利用には予約が必要です。
  • *目や耳などに障害のある方には、ご要望があれば上演台本を事前に貸し出します。こちらもワンツーワークスまでお問い合わせください。
『線引き~死者に囲まれる夜~』

(チラシ pdf)

視聴可能期間
11月20日(水)14:00~12月3日(火)23:59
配信チケット料金
2,200円(税込み)
チケット販売期間
9月29日(日)11:00~12月3日(火)18:00
  • *ライブ配信はありません。
  • *撮影は舞台全体の定点撮影になります。
  • *ご試聴される媒体・機種によっては4Kでご覧いただけない場合があります。

配信チケット取り扱い

Confetti(カンフェティ)
https://confetti-web.com/@/onetwo-w41_streaming

赤坂RED/THEATER

東京メトロ丸の内線・銀座線
【赤坂見附駅】(10番出口)より徒歩3分
東京メトロ千代田線
【赤坂駅】(2番出口)より徒歩6分

〒107-0052
東京都港区赤坂3-10-9
赤坂グランベルホテルB2

※劇場入口はホテル入口と異なります。
お越しの際はご注意ください。

TEL:03-5575-3474
ロビー直通:03-5575-7132(公演期間のみ)

  • [美術] 礒田ヒロシ
  • [照明] 磯野眞也
  • [音響] 黒澤靖博
  • [舞台監督] 尾花 真
  • [衣裳] 友好まり子
  • [フライヤーイラスト] 古川タク
  • [制作] 藤川けい子
  • [演出助手] 日置なお
  • [舞監助手] 小山広寿
  • [映像] 後藤輝之
  • [大道具] 伊藤幸夫 イトウ舞台工房
  • [衣裳助手] 増田 和
  • [小道具] 原田佳世子/田邉かおり
  • [宣伝デザイン] 西 英一
  • [スチール] 富岡甲之
  • [舞台写真] 黒木朋子
  • [HP制作] 吉田淳一
  • [制作協力] J-Stage Navi/平田愛奈
  • [マネージメント協力] 希楽星/TMエンタテインメントト/まんてんぼし(以上50音順)
  • [ワンツーエンジェル] 徳永義博/武井高之/小笠原由季恵/伊勢崎健/大塚順一/髙宮香枝/天野真希/森田茂伸/小野 実/菊池悦子/関建二郎/谷山浩一郎/本坂 剛/志村衛介/つるさん/torima/てん子/ぽんちゃん/マリリン ほか匿名の方々
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