真由 | でもなんか不思議。 | |
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日比野 | 不思議? | |
真由 | 父さんと母さんがそうやって話してるの、久しぶりに見た気がする。 | |
綾子 | ほんとね、おまけにあんたまで加わって。こんなことならもっと早く記憶喪失になってもらえばよかったわね。 | |
日比野 | お前なぁ。 | |
綾子 | 冗談よ 。 |
日比野 | そうだよ。幸多はどうしてる? もう働いてるんだろ? | |
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真由 | いるわよ、部屋に。 | |
日比野 | 部屋? | |
真由 | だから2階の。自分の部屋。行って来れば? | |
日比野 | え? もう帰ってきてるのか? なんで顔見せないんだ。 | |
綾子 | 仕事はしてないのよ。 | |
日比野 | してない……? | |
綾子 | ずっと家にいるの。 | |
日比野 | え……? | |
真由 | 引きこもってるのよ、5年前から。 |
真由 | 産むかどうか決めたわけじゃないけど、あたしね、もし男の子だったら全然欲しいと思わない。 | |
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綾子 | そう……。 | |
真由 | これはあたしの子供だから。 |
日比野 | ……僕は、およそ人の住んでいるところから、千マイルもはなれた砂地で眠りました。 難船したあげく、いかだに乗って、大洋のまん中をただよっている人より、もっともっと ひとりぽっちでした。 すると、どうでしょう、おどろいたことに、夜があけると、へんな、小さな声がするので、僕は目をさましました。声は、こういっていました。 「ね……ヒツジの絵をかいて!」 「え?」 「ヒツジの絵をかいて……」 僕は、びっくりぎょうてんして、とびあがりました。なん度も目をこすりました。あたり を見まわしました。すると、とてもようすのかわったぼっちゃんが、まじめくさって、僕をじろじろ見ているのです…… |
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日比野 | どうしてこうなった? | |
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幸多 | 3・2・1・0・どかん | |
日比野 | ………。 | |
幸多 | もう取り戻せない。 | |
日比野 | ………。 |