紙袋女 | ……現場からすぐ病院に来たわよ、何もかもほっぽり出して。 | |
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背広男 | ………。 | |
薮内 | ちゃんと書いてるか? | |
若背広男 | 書いてますよ、もうヤプさん、じっとしててくださいよ。 | |
薮内 | そうか、じゃ待ってやるか。 | |
紙袋女 | ……記事はほかの新聞社に抜かれたわ。 | |
背広男 | ……ヤプさんらしいな。 | |
紙袋女 | 忘れられてもしょうがないのよ。 | |
背広男 | それでああなったわけじゃないだろ。 | |
紙袋女 | でもあたしは忘れられるわけにはいかないの。 |
紙袋女 | やらせてよ私には最後のチャンスなんだから。(薮内に)いいですか? これから言う三つの言葉を言ってみてください。後でまた聞きますのでよく覚えておいてください。桜。猫。電車。 |
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若背広男 | なんでそんなことしなくちゃいけないんです? | |
紙袋女 | 邪魔しないで……!(薮内に)簡単ですよ、繰り返すだけなんだから。言ってください。桜。猫。電車。 | |
薮内 | ………。(呼吸が荒い) |
前掛け女 | ………。(そっと近づいて、薮内をぎゅっと抱き締める) | |
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薮内 | 路子……。 | |
前掛け女 | (赤ん坊をあやすように)もう、いいんですよ、もう、何もしなくていいんです。 | |
薮内 | ………。(安堵に包まれる) | |
前掛け女 | ………。(薮内の涙を、垂れる鼻水を、そっとハンカチで拭く) | |
薮内 | ………。(じっとその顔を見る) | |
前掛け女 | どうしました? | |
薮内 | あんた、路子を知らんですか? |
佐和子 | 「安江さん、父だって努力してるんです。上の人に掛け合ったり、ドナーに登録してる人、調べたりしたんです。何もしてないわけじゃないんです」 | ||
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安江 |
「だったらヤプさん、連れてきてよ、肝臓をあげてもいいっていう人。人ひとり助けることができなくて何のための新聞なの、ヤプさん、黙ってないでなんとか言ってよ、良平を助けると思って、ね、この通り、頼むわよ」 | ||
葬送の列が遠く、霧の彼方ほど遠く通り過ぎていく……。 薮内がまた別の箱を手にすると、どうしても像を結ばない女の声に続いて、囁く声が迫ってくる。 |