若背広男 | 俺まだこの仕事長くないけど、ヤブさん、ほんとに生き生きしてたんすよ。ほんとに俺、できるもんならずっと松木でいたかったです。 |
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前掛け女 | それは感傷よ、長尾君の。 |
背広男 | そこまで思ってもらえて俺も嬉しいし、ヤブさんもきっと喜んでると思うよ。でも今のヤブさんはもう以前のヤブさんとは違うんだ。 |
ピアス男 | 「私はこの国の王である」 |
背広男 | え? |
ピアス男 | 「そして、私はこの国の僕である」 |
耳をすます一同……。 すると、女の声がかすかに聞こえてきて−。 | ||
女の声 | ……なこと言ったって怖いのよ、なんだか。 | |
藪内 | 大丈夫。 | |
女の声 | ……あなたはいいわよ、あなたが産むわけじゃないんだから。 | |
背広男 | 隣だ……! | |
若背広男 | 隣の女の人に答えてるんすよ……! |
藪内 | ……佐和子。 | ||
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紙袋女 | ずっと見ててくださいね。 | ||
藪内 | ……ずっと……ずっと見てる。 | ||
右と左、繋がれて、声を見ている人たち……。 藪内はそれまでずっと抱えていたその小さな箱を、自分の周囲に集めた箱に、やさしく、そっと、積みあげる。 |