境 | 早く処置しないとクランケこのままじゃ……。 | ||
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猪瀬 | 今見てるだろう。(芦原に)輸血は量どれくらい…… | ||
芦原 | 1,400cc越えました。 | ||
境 | (助手に)スパーテル、押さえて。 | ||
芦原 | ……顔には赤み、戻ってきてるんですけど。 | ||
猪瀬 | どこだ……? | ||
芦原 | (助手に)輸血パック追加して。 | ||
猪瀬 | くそぉ、どこなんだ……? | ||
寝息のような酸素吸入器の音。 医者たちの目まぐるしい動きが一瞬止まって−。 | |||
猪瀬 | ここだ。 | ||
境 | ……。(覗き込む) | ||
猪瀬 | ……脾臓破裂。 |
芦原 | 麻酔医の私はいつも蚊帳の外。患者との駆け引きもないし、出世競争とも縁がない。女だし。 | |
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猪瀬 | ………。 | |
芦原 | いつも遠くから眺めてるだけ。 | |
猪瀬 | ……オペラグラスか。 | |
芦原 | え? | |
猪瀬 | だからいつも遠くから覗いてる。 | |
芦原 | ……ドクターに向いてないんですよ、私。 | |
猪瀬 | それは人が決めることだよ。自分で決めることじゃない。 |