猪瀬 | いっておくが、問診ではあの子が何も言わなかったんだ。 |
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境 | 患者とのコミュニケーションなんて僕ァ興味ないですから。 |
猪瀬 | 問診はただのコミュニケーションじゃない。 |
境 | そんなもんがあろうがなかろうが、医者は死なせちゃいけませんよ。 |
景浦 | (低姿勢で示し)恐れ入りますが、詰め所はこちらで。 |
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千羽鶴男 | ………。 |
景浦 | パンフレットもそちらで用意させていただいてますので。 |
千羽鶴男 | ………。 |
景浦 | あのぅ……? |
千羽鶴男 | (ぼそぼそと)……ななくてよかったんですよね? |
猪瀬 | え? |
千羽鶴男 | (小声で)死ななくてよかったんですよね、本当は。 |
猪瀬 | ……! |
千羽鶴男 | (次第に声が大きくなって)盲腸だったんですよね。虫垂炎だって先生、そうおっしゃいましたよね。 |
深町 | 心拍数がどうやってしゃべんのよ? |
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福泉 | だから、心拍数が144まで上がったら、それは「超ハッピー」っていう意味だとか。 |
深町 | 前もって決めとくわけ? |
福泉 | そう。そしたら気持ちわかるでしょ? |
深町 | でもなんで「超ハッピー」が144なのよ? |
福泉 | イッシッシで超ハッピー |
深町 | 戻って寝ろ。 |
境 | 癌なんですよ。悪性の胃癌で進行性の一種。 |
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市川 | ……!(真顔になって)……スキルスですか? |
境 | 特別珍しい病気じゃないですよ。 |
市川 | いやま、そうですけど。 |
境 | 結構厳しいとこにいるんです。 |
市川 | オペ、難しいんですか? |
境 | 何もしなければ3カ月。 |
市川 | 3カ月……。 |
境 | ジレンマですよ。スキルスは抗ガン剤でもたたけないし。 |
市川 | (咄嗟にパンフレットを差し出し)うちの抗ガン剤ならたたけますよ。 |
叔母 | 明日、手術なんです。 |
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叔父 | いえ、私どもじゃなく、身内のものが手術するんですが……。 |
叔母 | 先生から覚悟はしといてくれっていわれまして。 |
叔父 | 甥っ子なんです。 |
叔母 | 名前は悟です。 |
叔父 | 橋本悟。 |
叔母 | 私たち、親代わりでして。 |