猪瀬 | 悪いんですがね、ここで人と会う約束をしてるんですよ。 |
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景浦 | 製薬会社の人間ですか。 |
猪瀬 | 違いますよ。 |
景浦 | 取ったのは同意書じゃなくて金なんじゃないんですか。 |
猪瀬 | あなた余程、金がお好きだ。 |
景浦 | 先生たちがお好きなんでしょう?手術をすれば謝礼金、薬を使って謝礼金。 |
猪瀬 | 手広く稼いでるのはそちらでしょう?聞いてますよ。まだ生きている人にまで葬式をけしかけてるそうで。 |
突然、音楽が途切れる。 頭を抱えていた市川、不審な面持ちで顔をあげ、ヘッドホンを片耳だけあげてみたりする。 再生ボタンを何度も押すが無音のまま……。 首をひねりつつ、もう一度再生ボタンを押してみる。 果たして、再生される音楽。オノ・ヨーコの歌声……。 市川の顔、見る見る驚きに支配されていって−。 福泉がゆっくりと現れる。 その視線、市川を捕らえて離さない。 ゆっくりと福泉、市川に近づいていき、すぐ真後ろまで迫る。 その目、耐え切れないほどの苦痛に満ちて……。 |
深町 | (モニターを見て)反応ありません。 |
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猪瀬 | どうした、出てこい。透明人間。 |
景浦 | ……今、詰め所のパソコンで見たよ。 |
猪瀬 | 開胸しよう。 |
市川・深町 | え? |
猪瀬 | 開胸心マッサージだ。ぐずぐずしない。 |
深町 | はい |
景浦 | スキルスなんだな。 |
市川 | ………。 |
猪瀬 | 輸血パックも用意。 |
深町 | はい。 |
景浦 | だから試したのか?だからてめぇんとこの新しい抗ガン剤、試したのか。 |
猪瀬 | 葬儀屋、何度いったらわかるんだ、携帯は……。 | |
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深町 | 先生、モニター……! | |
猪瀬 | え? | |
深町 | 心拍、戻ってきて…… | |
景浦電話に出て−。 | ||
景浦 | はい、景浦。 | |
福泉 | 僕です。 | |
景浦 | ……! | |
その声、502全体に響いて−。 | ||
福泉 | 葬儀屋さん? | |
景浦 | ……ああ。 | |
福泉 | まだ聞こえます? | |
猪瀬 | ……時間は? |
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深町 | 午前X時X分です。(デジタル時計を見上げて言う) |
猪瀬 | よぉし、続けよう。 |
深町 | え? |
景浦 | なんで? |
猪瀬 | 何もしてないんだよ、私は。 |
深町 | 先生。 |
猪瀬 | 私はまだ何もしていないんだ。 |