劇団ワンツーワークス (OneTwo-WORKS) 古城十忍の演劇

誰も見たことのない場所
セリフ抜粋 (本作品で語られるセリフの部分的な抜粋です)
藤本沙織………数々の自殺未遂を経験、自殺サイト管理人
沙織 今までさんざん家族とか大事な人たちに悲しい顔をさせてきて、すごく申し訳なく思うんですけど……やっぱり死にたいっていう気持ちは消えないです。……死にたい一番の理由は、虚無感とか、息苦しさとか……鬱病も関係してるとは思うんですけど……。
あの私、小さい頃からクラスでは浮いてしまう子で、集団や社会に適応できてなくて、子どもの頃ですら適応できないのに、大人になったら生きられるはずがないというか、大人になるのが怖くて、大人になる前、20歳になる来年1月31日の誕生日までに、自殺を完遂しようという気持ちは……すごくあります。
黒崎啓造………飛び込み自殺をされたことのあるJR運転士
黒崎 夜、そう19時50分かそこらで、発車してすぐだったから後ろの車両はまだホームにかかってる状態だったんですけど、進行方向は左カーブになってて、カーブを抜けて直線になってきたなと思ったら、そこに女の人が立ってた。線路ってレールが2本走ってますよね。その真ん中に立ってた。東海道線の電車は長いんで、後ろがまだホームにかかってるっていっても、もうだいぶスピードは出てて、時速60キロはあったかな。それで、あ、と思って警笛鳴らしたんです。女の人は電車に背を向けて、こう立ってたんだけど、警笛を鳴らしたらこっちに振り返った。でもまたすーっとあっち向いちゃう。電車って止めようと思っても、警笛鳴らしてブレーキかけたら、あと何にもすることないんですね。惰性でだぁーって走ってっちゃう。惰性でだぁーって走ってって止まるまでけっこう時間があって、こういうとき、よく頭の中が一瞬真っ白になるって言いますけど、なんか俺、夢見てんのかなぁ……って感じなんですよ。
アルタイル………インターネットの相談系サイト「純白の惑星」管理人
アルタイル 自殺の否定に対して、「自分の命だから好きにしていいじゃん」っていう考え方、ありますよね。でもよく考えてほしいのが、「自殺は本当に自由なの?」ってことです。誰もが誰かとは関わって生きてるわけだから。他人は関係ないとは言えないですよね? 自分以外の人との関係性がある以上、人の命は重いんです。それと、「自分の肉体は自分であって、同時に自分の肉体じゃないんだよ」ってことです。「肉体だって人格があるよ」っていうことです。つまり肉体は、痛いよ、痛い痛い、っていう叫びをあげる。肉体は傷つければ傷むし、血も流れるし、自分の意志とは関係なく、その傷を塞ごうともするし。命の重みっていうのはそこにもあるんです。
夏木知明………自殺対策NPO法人代表
夏木 自殺で亡くなっていく人たちを僕は「特別な人たち」だと思ってたんです。僕らと同じ道を生きてる人たちがなぜ自殺で亡くなっていくのか、僕にはさっぱりわからない。あの人たちは僕とは違う、何か「特別な人たち」なんだと。でも実際、たくさんの遺書を見せてもらい、未遂者の声を聞かせてもらうと、誰一人、まさか自分が追いつめられることになるなんて思ってない。遺族や周りの人たちも思ってない。これは裏返せば、いつ自分が、自分の大事な人が、同じようになるのかわからないってことです。でも僕らは感覚的にどこかで拒否してる。あまりに生々しいというか、死について語ることがなかなかできない。誤解や偏見があるとわかってるから、なおさら話せない。でも、この断絶の壁を打ち破らないと、決して「特別な人たち」は「普通の人たち」になれないんです。みんな、誰もが、普通の人です。特別な人なんてこの世に一人もいない。今僕は、心からそう思います。
高田達也………青木ヶ原樹海を管轄する富士吉田警察署生活安全課)
高田 警察としては自殺する方を守ってやりたいっていう気持ちはありますよ。ありますけど、北海道、沖縄、全国各地から集まって来るんですよね、ここへ。テレビ、雑誌、インターネット、どれもが煽ってるでしょう? 青木ヶ原樹海に行けば死ねる、奇麗に死ねるって。 死ねませんよ、樹海に行ったからって。確実に死のうと思ったらロープでも持ってって首吊るしかないんですよ。ああ、睡眠薬飲んだって死ねない死ねない、よっぽど真冬で凍死しない限りは。ハルシオンかな? 今一番強いっていう睡眠薬。あれ全然、効かない効かない。そんな薬に頼っちゃいけないいけない。甘い甘い。つい最近も1週間さまよって、恐怖で、孤独で、耐えられなくなって出て来た人いるからね。そういう方、いっぱい保護してますよ。
光岡雅子………「キッズ・ライン」スペシャル・バイザー
光岡 でも会社の人にも言われたわよ。「そんなこと言う必要ないんじゃないですか、誰にもわからないんだから」って。……でも私は息子が亡くなったとき、すごい悲しかったけども、それを認めようと思ったの。だから会社の人にも「息子の生き方も死に方も認めたいから、私は言います」って言って。主人とも話したの。息子が自殺したのは息子からのメッセージだから、ごまかさないで話そうって。「理由はわからないけど自殺しました」ってきちんとそう伝えようって。
郷田忠史………多重債務者支援団体「あさひの会」事務局長
日野 猛………同会会員
池永明美………同会事務局員
岩田正男………同会会員
郷田 もう借り癖ついちゃってっからね。けど1社借りたらもうダメよ。雪だるま式。あっという間にまた、だーって増えちゃって。もう親も金ないからさ、親戚にまで金借りて。
池永 それでも残っちゃった。
郷田 残っちゃったのよ、闇金15社。それでもう、またどうにもなんないわけ。ホントもう借りるとこないんだからさ。で、死んだほうがいいかなって思って、うちは親父がプラスチックの製造をやってたから自宅の隣の工場の梁に自分のベルト引っかけて。
日野 親もそれ、見てたんだよな。
郷田 そうそう。親に「もう一回だけ、どうにか都合つけてくんないか」って言ったもんだからさ、「もうそんなんだったら、おまえ死ね」って言われて、親が見てる前で椅子の上あがってベルトの輪っかに首通して。そしたらちょうど闇金から電話来たんだよ。で、オフクロが電話に出て、「ああ今ね、首吊ってるから。死んで警察も来るからあんたも来たほうがいいわ」つってガチャーンて電話切って。で、もう俺、やるしかないじゃん。えいって椅子蹴倒したらブチって、ブチってベルトが切れちゃったのよ。
岩田 よかったんだか、悪かったんだか。
郷田

で、その日の夕方かな、ここと同じようなことやってる東京の「太陽の会」の人たちがテレビで紹介されてて、それ見てたオフクロが電話しろって言って電話したわけ。そしたら「埼玉のほうだったら、あさひの会ってのがあるからすぐ行きなさい」って言われて。

日野 よかったよなぁ、それでケリついたんだからさ。
三沢恭二……自殺対策NPO法人事務局員
三沢 私が中2のとき、父は自殺しました。私が第一発見者です。自分の車のマフラーから伸ばしたホースを運転席まで引き込んで、父は座席で口を開け、ただ寝ているように見えましたが、きっちり閉められたガラス窓をいくら叩いても、「お父さんお父さん」と何度叫んでも、何の反応もありませんでした。
それから私の「見えない恐怖」との闘いが始まりました。父のことをどうしても話せないんです。話せばきっと私は特別な目で見られる。友達が、周りの人が私を避けるようになる。避けなくても、きっと態度は変わる。私は父のことを隠し続けました。父を恨みもしました。いつも何かから逃れるように生きている自分の態度に、絶えず苛立っていました。
でも直接的な言葉で傷つけられたことも、あからさまな態度で嫌な思いをさせられたこともありません。「見えない恐怖」をつくりだしていたのはたぶん、私自身です。
自殺には偏見がある、偏見があるから話せない、話してもわかってもらえない。そう思いこんで自分で不安を増幅させていたんです。大学生のとき、私と同じように親を自殺で亡くし、同じように苦しんでいる人たちと出会い、そのことに気づかされました。そしてあれほど抵抗のあった、言おうとすればそれだけで体が震えた「自殺」の一言を私は口にできるようになりました。
だけど、なかなか簡単にはいきませんね。私が自殺を語れるようになっても、語れる場所がなかなかないんです。むしろ語ろうとすればするほど、「そんな話いいよ」と遠ざけられて、語れる場所は語ろうとするたびに静かに消えていってしまうんです。なぜ語ろうとすると遠ざけられるのか。語らなければわからないことはいっぱいあるはずなのに、なぜ語れる場所がこうも少ないのか。
新たな闘いの始まりです。私が勝手に思いこんでいた「見えない恐怖」と違って、この国を覆い尽くす「無関心」という今度の敵はかなり手強い。それは間違いありません。
今、私は自殺対策のNPOで少しでも語れる場所を増やそうと、本当の「見えない恐怖」に闘いを挑んでいます。きっと父は、そんな私を応援してくれていると思います。
徳 正輝………「歌舞伎町救護センター」所長
ほんまに助けるんやったら体張らな、捨て身にならなあかん。ところがみんな手練手管、見よう見真似でやろうとするやろ? 何抜かしとんねん、どれだけ親身になれるかや。親身っていう字そやろ? 親の身になる。この、このパワーがあればええねん。
でまた相談受けてる人間がみんな静脈運動や。俺みたいに動脈じゃないねん。馬力が、パワーがないとあかんねん。みんな静脈で「何があったんですかー」「あそうですかー」「死んじゃだめですよー」「まあそう言わずに頑張りましょう」。アホか。死のうとしてる奴はな、もう気が失せてんねん、気が病んでるねん。そんな時に追い打ちをかけるように同調して「苦しんでるのはみんなそうですよー」、そんなこと言うてもあかんねん、逆。上からバーン!ってパワーアップしてあげなあかん。これは絶対そやで。男も女も。
みんな人それぞれ認めてもらいたいねん、自分の存在を。命ってな、躍動感や。自殺したい奴はその躍動感がゼロやねん。ゼロのなり方がそれぞれ違うねん。十把一絡げじゃあかんねん。そやから自殺防止対策でいっぺんにどうこういうやり方は、悪いけど俺はできへん。でも、一人一人はできる、まずは一人。たった一人な。一人なら止められる。
『誰も見たことのない場所』はこんな演劇です――。
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