[Return]
藪内
背広男
ピアス男
|
背広男 | どんな具合なんすか? 右にも左にもズレた俺がいるんすか? まさか右と左それぞれに一人ずつ俺がいるとか? |
藪内 | (再度のぞき)………。(そのままぐっと頭を後ろに引いて)………。(さらに引こうとして後ろに倒れそうになる) |
背広男 | 俺が下がりますよ。(下がる) |
藪内 | もうちょい。 |
背広男 | (下がって)まだっすか? |
[ 戯曲 ]
| | 突然、左の箱の塔から一つの箱が落ちる……。
藪内は不意にびくっとしたかのように、あらぬ方向に振り返る。 | |
背広男 | どうかしました? |
藪内 | あ、いや……。 |
[ 戯曲 ]
| 紙袋女 | ……冗談でしょう? |
藪内 | 何が…ですか? |
紙袋女 | あたしが誰だか分からないの? |
藪内 | 取材か何かで……? |
紙袋女 | ふざけないで! |
藪内 | (驚いて)……どうしたんですか? |
紙袋女 | いい加減にしてよ! 人がせっかく心配して来てやってるのに! |
[ 戯曲 ]
藪内 | 知ってるよ、それくらい。 | |
ピアス男 | (ムッと)じゃ聞くなよ。 |
| | ピアス男、あきれて藪内から離れると、牛乳を飲みつつバッグからCDウォークマンを取り出し始める。
藪内、パソコンに向かうが、ピアス男の様子が気になって仕方がない。時に憐れみの目で見たりしてしていると−。 |
[ 戯曲 ]
|
目には遠く、葬送の列が見えてくる……。
喪に服した女のすすり泣き、虚ろな目の遺族が果てもなく続くかのように見える葬送の列……。
囁くようなその声、次第にはっきりと耳に届いてきて−。 |
[ 戯曲 ]
紙袋女 | 私、出直さなきゃいけないんですか? | |
若背広男 | (声を張り)あ、今行きますから。 |
藪内 | 俺は行かない。 |
若背広男 | 何言ってンすか、普通に応対しないとかえって怪しまれますよ。 |
藪内 | 行きたくない。 |
[ 戯曲 ]
|
藪内、狭い鉢に入れられた金魚のように口をアグアグ……。
愕然と3人を見ていたが、不意にただならぬ悲鳴をあげて、両手で両の目を同時に覆う……。
途端に左の部屋にうず高く積み上げられていた、危うげな箱の塔が音をたてて、一瞬にして崩れ落ちる……。 |
[ 戯曲 ]
[Return]